生体膜研究・開発部会(生体膜部会)
ライフサイエンス研究会研究部会 藤 田 道 也
1.生体膜のもつ意味

●1つの有力な仮説を述べますと、生体膜は生命の起源と同じだけ古く、原始的な生命体と外部環境の仕切り
  でした。それがなければ、生命環境を構成している物質は拡散してしまったでしょう。しかし一方でそのような
  封じ込めに成功したところで、まったく物質の出入りがなければこれまた生命は維持できません。
  "袋"の中はたちまち老廃物でいっぱいになってしまい、生命過程は停止するか崩壊してしまうでしょう。
  そのようなことにならないためには、膜は老廃物を外に出すことができ、生命の素材は中に入れることができ
  る性質をそなえなければなりません。これが生体膜のもうひとつの重要な機能の「輸送」です。

          

●さらに生物が進化して、多細胞体制が出現すると、細胞膜は細胞間の情報伝達、情報認識の機能をもつよう
  になります。内分泌支配、神経興奮の伝達、免疫などの現象はこの機能に含めることができます。
  また、最初は生命体と外部環境を仕切るための生体膜が、細胞の機能が複雑化すると、細胞の中、つまり生
  命環境の中をも仕切るようになりました(細胞小器官の出現)。その結果生命体過程は、より効果的に行われ
  るようになります。

          

●膜のもう1つの機能として、生体成分が水溶液にばらばらに存在するのでなく膜の上に一定の秩序をもって配
  置されることによる反応の効率化があります。呼吸やそれによるエネルギーの獲得反応がその例です。

            

2.研究方法

 生体膜の研究には、上で述べられたような透過性や輸送、また細胞間の情報認識などの機能面の研究と生
 体膜の構造や組成、またその生構築などの実体的研究とがあります。これらの機能やまたそれらを可能とし
 ている構造の解析は生体現象そのもの解明でなく、それらの人工利用にもつながります。
 生体膜の生構築のしくみを解明することは、将来、生体膜をひいては人工臓器の合成につながる仕事です。

             

3.技術開発

 生体膜の研究やその成果に基づく技術の開発・応用は、現在の国際的動向が示すように、独創的な確信技
 術を生み出す可能性をはらんだライフサイエンスの中で、組換えDNA技術と並ぶキー・テクノロジーであり、
 両者はそれぞれ独自の重要性をもっていますがとくにDNA技術の生体膜研究への応用は、最も稔り豊かな
 技術的開発を約束しています。

             

4.発展

 2つのキー・テクノロジーの発展のために国も科学技術振興整費などの重点配分を行っていこうとしています
 が、それだけでは資金と人力においてなお不十分であり、民間企業の参加とその活力の利用の重要性を国
 も認めています。とくにDNA技術の生体膜研究への対応とそれに関連した技術開発には民間からの寄与が
 望まれます。
 ライフサイエンス研究会は、そのような開発を他県に先んじて行おうとしているのです。生体膜研究会は、実
 験生物研究部会と密接な連絡をとりつつ行動する予定であり、当面浜松医科大学と実験生物研究開発サブ 
 センター(予定)に研究をもつことにしています。

             

<いま生体膜研究会が浜松医科大学に委託して行っている研究>

1)特定の機能を有する膜の分離・解析・再構成技術の開発
 私たちは、小腸の膜で消化の最終段階をへて、栄養素の吸収を行います。そのしくみを研究するととも に将来は人工腸管の合成を夢みています。

2)特定の細胞膜タンパク質の精製、生合成・単一膜再構成技術の開発
 私たちの腎臓は、1日におどろくほど多量のナトリウムイオン(食塩の成分)を再吸収しています。その  吸収を担当しているタンパク質を研究していますが、将来はナトリウム輸送膜の人工合成も考えられま す。

3)巨大分子の生体膜認識および通過機構の解析技術の開発
 私たちの細胞の中にはいろいろな小器官があります。この研究は、小器官がつくられるしくみを明らか にしようとしています。将来は細胞内小器官の人工合成を考えています。

4)膜における受容・興奮連関の解析・再構成技術の開発
 神経の興奮伝導のしくみを研究しています。人工神経の合成も夢ではなくなりつつあります。

5)特定の機能を有する細胞膜の構築と再構成における糖脂質の役割
 生体膜の必須成分である脂質の追求をしています。人工膜をつくるにも脂質は欠かせないでありましょ う。

6)特定の機能をもつ生体膜の保存技術と人工膜の開発
 腎臓膜の保存を研究しています。腎移植技術の改良から人工腎臓の製造へと時代は動いています。

7)特定の機能をもつ細胞膜の微細構造解析技術の開発
 私たちの気管支粘膜は、線毛という細い毛で覆われています。レーザー光線を用いて線毛や細胞膜の うごきや人工粘膜が備えるべき構造の研究をしています。


私たちの研究は、現在浜松医科大学で行われていますが、これらの研究を統合し、さらに発展させるため
には、浜松でのライフサイエンス推進の中心となるような施設の設置が必要です。